冬の澄んだ空気の中を風が吹き抜けていきます。現場の脇の道路は大通りから外れているものの、意外に人も車もよく通り、皆様の目には一様に好奇を帯びているのがよくわかります。

 「少しは片付いてきたのかな…」

 一か月をかけての大規模な「いわゆるゴミ屋敷」のお片付け作業は、まだまだ先が見えません。

 建物の中のゴミは限りなく100%に近い容積率で天井近くまで埋まってしまい、玄関入り口のドアを開けるのさえ困難です。今回はそんな家中を埋め尽くしたゴミが家の外まで大量に溢れてしまい、ご近所へのこともあるので(とりあえず)家の外のゴミだけを片付けてほしいというご依頼でした。どうやら行政の指導もあったようです。

 「ふぅ…」

 没頭モードのスイッチが切れ、一息ついて辺りを見回すと、思わず途方に暮れてしまいます。仕分けをしたゴミ袋や袋に入らない大型のゴミ類は搬出スペースに高々と積みあがっていますが、どうにもあまり減ったような気がしません。

プライバシーとご近所さんの優しさと

ゴミ屋敷の片付け 作業をしているとご近所さんの方が色々と話しかけてきてくれます。ご依頼人のプライバシーもあり、こちらからは話せないこともあるのですが、ご近所さんの協力がないと作業が難しくなってしまうこともあります。そんな理由もあり(ちょっと上からで申し訳ございませんが)無下な対応も出来ません。

 プライバシーにかかわる話は正直に「そういったことは話せない時代なんです…」ということを伝えてしまいますね。まあそれで殆どの方のご理解が得られます。

 プライバシーにかかわることはお話しできませんが、自然と当店がどういう仕事をしているのか、どんなことをやってくれるのか、なんて話も聞かれます。こういった時にお話した方から数か月後、あるいは数年後に思わぬご依頼をいただくこともございます。意図しているワケではないのですが営業活動になり、こちらとしてはありがたい限りですね。

 「お…雨、かな?」

 お昼前にポツリと降ってきた雨は、朝の天気予報を裏切るものでした。空は明るく、通り雨のように思えましたが、今回の作業は雨だと難しい外仕事。少し様子を見てみることにしました。

 雨をしのぐには少々無理のある、申し訳程度の屋根の下で雨宿りをしていると、さっき話していたご近所さんが「うちの軒下に入ってもいいんだよ」と声をかけてくれました。この季節の雨は体にこたえるため、お言葉に甘えることにいたします。広めの軒下で雨をしのいでいると、温かいお茶を差し入れてくれました。本当にありがたいことです。

 ご近所さんとしては、やはり今回の現場の状況はずっと気にされていたみたいです。

 「大地震が来たら…?」 「火事になったら…?」

 上記のような、いざという時のことも勿論心配ですが、夏の暑い季節には異臭・害虫の実害は確実にあったのではないかと思います。作業中に少ないながらもGは何匹も見ましたので。この点に関しては、作業する身としては今が冬で本当によかったと思います。

 そんな理由から今回の片付け作業は(こちらの方が依頼したわけじゃないけど)とても感謝とねぎらいのお言葉をいただきました。

 ご依頼をいただいたお客様も勿論ですが、こうして色々な方に喜んでいただくことが出来るのは、このお仕事のいいところですね。

作業のポイントは

大量のゴミを処分する業者 実はお見積りにお伺いした時は正直「これは難しいな」と思いました。こういった大規模な案件で、作業条件が良くない場合はとても時間がかかってしまいます。

 ・物件前の道路は道幅が狭く、大型トラックは入れない(2トントラックが限界)。

 ・加えて回収車両を前に止めてしまうと交通障害を起こしてしまう。

 ・回収対象の品物は全て屋外放置品(雨ざらし)。

 ・仕分けして回収できるようにまとめても、一時的に積み上げて置ける場所が狭小(一度に大量の人員を投入して片付けられない)。

 今回の作業が難航すると思われるポイントは、ざっと上記のような理由がございました。退去日が迫っているなどの緊急ではないので、日数をかけて作業をすることをご提案の上、ご了承いただきました。

 一番心配だったのは積雪ですね。この季節は東京でも大雪が降ってしまうと、そこそこ雪が積もります。雪が積もってしまうと、とてもではありませんが作業が出来る状態ではなくなってしまうロケーションでしたので。

 予備日も含めて1月いっぱいの期日をいただいたのですが、積雪があった場合は期日内に終了しないケースも十分に考えられました。幸いにして1月は雪が降ることがなかったので本当に助かりました。

コツコツとが片付くコツ

 昔は家屋を解体する場合、例えゴミ屋敷だろうが何だろうが、ミンチ解体といって重機で家財が入ったままの建物ごと潰してしまうという荒々しいことをしていたそうです。

 取り壊した家屋はどうなっていたのかと申しますと、瓦礫や潰したゴミ、タイルや瓦なんかも一切合切で埋め立てていたみたいです。アスベストや銅線なんかから有害物質が出ることは勿論ですが、埋め立てる場所も当然のことながら有限なので法律が制定され、ミンチ解体は出来なくなりました。

 ご老人の方々で、ご自身のご実家をそうやって解体したことをご記憶されていらっしゃるのか「私が死んだら家ごと取り潰してくれればいいからね」ということをご家族に伝えている方もいらっしゃいますが、今の時代はリサイクルの時代。ミンチ解体のような工事は出来ないので、事前に中の物を全部片づけなくてはなりません。

 積みあがったゴミの山をコツコツと崩していきます。ゴミ、というと言葉が悪いかもしれません。恐らく、この状況を作った方にとってはゴミではなく大切なものだったと思いますので…

 恐らく未開封の新品で置かれていたであろう物が、長年の雨ざらしで箱は変形・劣化・融解し、ぐちゃぐちゃになっています。品物は日用品と飲食物が殆ど。食器類・鍋類・スプレー缶・洗剤など…それらを仕分けしてリサイクル・処分出来るように分別してまとめていきます。

 一言で「ゴミ屋敷」といっても、その実態は様々です。日常生活で出るゴミで埋め尽くされた部屋もあれば、今回のようにご本人にとっては必要なもの(でも他人からはゴミ認定されてしまうもの)で埋め尽くされているような場合もあります。

 それらを一つ一つ、丁寧に分別と仕分けを繰り返して作業は進んでいきます。大量のゴミを目の前にして、作業を始める時は「どこから手を付けようか」とか戸惑いもあるのですが、とにかくコツコツとやっていけば片付くということを経験として身に着けていますので、どこから手を付けていいかわからない場合は、どこからでも手を付けて構わない、くらいに考えて作業をすることにしています。

 ひたすらに、来る日も来る日も、仕分けと分別を繰り返しながら作業は進んでいきます。掘り進めて奥に進んでいくと、日用品だけでなく大量の植木や、中には育ちすぎて樹木化し、さらには植木鉢を突き破ってコンクリートにまで根っこを生やしてしまった難易度の高いものも出てきました。

 植木類も植木鉢・土・本体部分に分けて処分できるようにいたします。本当に全ての物は分別が必要な世の中なんだと、改めて思いますね。

 屋外放置品なので片付け作業中に思わぬ物から排水(たまった雨水とか)が出てきたりします。作業は難航しますが、それらは想定内。汚れの酷いものを手に取ってしまった時、思わず「後回しにしようかな…」などという考えが仕事を忘れて出てしまうこともあるのですが、そんな邪念を払拭すべく「手にしたものは必ず分別する!」というマイルールを心の中に掲げて、ひたすらに、ただひたすらに作業に没頭していきます。

作業を終えて

 最後のゴミをまとめてトラックに積み込んだ後、現場を掃き清め終わって、ようやく作業が終了した実感がわいてきます。たくさんのご近所の方々が「本当にお疲れ様!」といった労いのお言葉をかけてくれます。ご近所の方らしきご婦人が見渡しながら言いました。

 「本当によく片付いたねー」

 …僕もそう思います。そう、いつも最初は「どーやって片付けるの、コレ…」と思うようなご案件でもコツコツと作業すれば、どんなゴミ屋敷でも片付けることが出来るんですね。

 無事に作業が終了したことをお客様に報告し、作業は終了となりました。ちょっとは社会のお役に立てたのかな、ということが実感できる嬉しい瞬間です。

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